2005年の夏、小学4~6生の子どもたちに行われた憲法についての講和より
憲法前文を読んでみる
第二次世界大戦に負けて、昭和二十二(一九四七)年に
新しい日本国憲法が施行されたとき、当時の文部省は、
「あたらしい憲法のはなし」という冊子をつくって、子どもたちに配りました。
そのなかに、こんな一節があります。
いまやっと戦争はおわりました。
二度とこんなおそろしい、
かなしい思いをしたくないと思いませんか。
こんな戦争をして、
日本の国はどんな利益があったでしょうか。
何もありません。
ただ、 おそろしい、かなしいことが、
たくさんおこっただけではありませんか。
戦争は人間をほろぼすことです。
世の中のよいものをこわすことです。
だから、こんどの戦争をしかけた国には、
大きな責任があるといわなければなりません。
このまえの世界戦争のあとでも、
もう戦争は二度とやるまいと、
多くの国々ではいろいろ考えましたが、
またこんな大戦争をおこしてしまったのは、
まことに残念なことではありませんか。
······そこで、今度こそ二度と戦争をしないように、
武器や軍隊をもたない、よその国と争いごとが起こっても
話し合いで解決しよう、ときめたんですね。
戦力を捨ててしまうのは、勇気のいることです。
でも、「あたらしい憲法のはなし」では、
「けっして心ぼそく思うことはありません。
日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。
世のなかに、正しいことぐらい強いものはありません」といっています。
ほんとうに固い決心のもとに、憲法がつくられたんですね。
この決心は、憲法の前文にも表されています。
前文は、憲法のいちばん最初に書かれていますが、
その内容は、憲法全体のまとめといってもいいでしょう。
ここでいちばん大切なことは、
「日本国民は」という主語ではじまっているところ。
文章の主語と述語が離れているので、
ちょっとわかりづらいですが、
「この憲法をつくったのは日本国民である」と、書いてある。
政府が国民に命令するのではなくて、
国民が政府に命令しているんですね。
じっさいの憲法前文を紹介しましょう。ぜひ、声に出して読んでみてください。
格調高い、すばらしい文章だと、私は思います。
【日本国憲法 前文】
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、
われらとわれらの子孫のために、
諸国民との協和による成果と、
わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、
政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、
ここに主権が国民に存することを宣言し、
この憲法を確定する。
そもそも国政は、
国民の厳粛な信託によるものであつて、
その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。
これは人類普遍の原理であり、
この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、
人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、
われらの安全と生存を保持しようと決意した。
われらは、平和を維持し、
専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、
名誉ある地位を占めたいと思ふ。
われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、
平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、
政治道徳の法則は、普遍的なものであり、
この法則に従ふことは、
自国の主権を維持し、
他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、
全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』
絵:いわさきちひろ(講談社)に収録
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