2003年談話
政治に関心をもつこと
政治学者の吉野作造の言葉に「わたしたちは無知でいる権利はもうない」というものがあります。民主主義とはそういうものなのです。政治はめんどうくさいと言うのは、もはや許されません。民主主義の主権者として、わたしたちには、政治に関心を寄せる責任があります。
そもそも「政治」とは、わたしたちが出した税金と、国民の財産を、どう再分配するかというものです。しかし、いったいどれだけの人が、国が税金をどのように使っているか、知っているでしょうか。
たとえば、これまで政府は、コンクリートを必要のないところにまで使用してきました。 日本には一級河川が二三三ありますが、その二三〇にダムがあり、なかには意図的にコンクリートで流れを変えているものもあります。手つかずの川は三本だけです。
もちろん必要性があって、工事をしたところもあるのでしょうが、むやみにダムを造り、護岸工事をし、流路が変更されているという点も否めません。日本はアメリカの国土の二五分の一の大きさしかないのに、アメリカの三〇倍の量のコンクリートを使っているのです。
また、海岸線のコンクリート海岸やテトラポッドは、この一〇年で、五〇パーセントから 六〇パーセントくらいに増えています。日本は世界五傑に入るくらい海岸線が長く、だからこそ漁業国なのですが、その漁業大国の海岸線の六割がコンクリートで固められている。テトラポッドを作っている会社には、役所から天下りした人が役員を務めているところも多いそうで、彼らが食べていくために、わたしたちの国家予算が使われているのです。
このような税金の使い道をすべて明らかにするのは、民主主義の大原則です。そのためにも、政治家や官僚が税金を正しく使っているかどうか、国民を代表してチェックするメディアの役割は大きいのです。マスコミとは本来、わたしたちの民主主義の道具なのですから、 それをうまく活用しなければなりませんし、マスコミの思想をわれわれが向上させなければいけません。
一方、一人一人の日々の行動としてなにができるでしょうか。まず、無責任な記事を掲載する雑誌や新聞は、買わないようにすることも必要です。お金を払うときは、それが食べ物でも、できるだけきちんとしているものに払うことです。よく言うことですが、ものを買うことは、投票をするようなものだからです。
ほかにも、組織として、地域として、できることはたくさんあるはずです。政治をよりよくするために、まずなにができるか、もっと考えてみませんか。
『井上ひさしと考える日本の農業』山下惣一編(家の光協会)
「フツーの人たちが問題意識をもたないと、行政も政治家も動かない」より抜粋
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